JELADO's  Manufacturing

Episode.4 「ロマンと科学で紡ぐ「XX」の遺伝子 Vol.1」

~第1回 「XX」再現プロジェクト。始動~


「501XX」。言わずと知れたメンズファッション界における伝説。
その魅力はプロダクトの質・存在意義ともに半世紀以上にわたり語り継がれてきているにも関わらず、いまだ謎に包まれた部分が多分にある。


今回のプロジェクトは‘53~54年に製造されたデッドストック状態の501XXに文字通りメスを入れ、現代の最新科学とデニム職人の卓越した経験値で、それらの謎を限りなく払しょくし、限りなく当時の新品に近い「501XX」をよみがえらせよう、という企画である。

全3回でお送りする本企画。
第1回目となる今回の焦点は、そもそもの501XXの魅力、そして501XXを現代に復活させることの難易度、さらになぜいまJELADOがこのようなプロジェクトを始動させたのか、の3点。

本企画の水先案内人である、20年以上にわたり501XXを現代に再現することを追い求め国内のデニム産業にその知見をフィードバックし続けてきた職人室井さん(以下、室井)と、JELADO後藤(以下、後藤)が紡ぐ会話をご覧あれ。



「正解がない。それが501XXの魅力です」—室井


後藤 まず、いろんな世代の方がこの記事を見られると思うので、そもそも本企画でいうところの「501XX」とは、ということを図に整理してみました。


JELADOでは1954年を501XXが完成形を迎えた節目と捉えており、そのモデルが完全にマーケットが浸透したであろう1955年の数字をとって「55モデル」という5ポケットジーンズを長らく展開してきたんです。

この企画は、その「55モデル」をリニューアルするという位置づけで進行させようかと。

さて、早速本題に入ろうと思うのですが、世界水準でも実質最高レベルの501XXの再現クオリティを誇る日本のデニム産業を20年以上見てきた室井さんから見て、501XXの魅力って単刀直入に、何なのでしょう?

室井 やはり、作業着としての5ポケットジーンズの完成形であり、現代メンズカジュアルファッションの原点である、というのが一番のこたえですかね。世界中の大手メゾンブランドのデザイナーですらもやはり、5ポケットジーンズにおいては501XXを追いかけているところがありますし。

後藤 メンズカジュアルファッションのルーツ、まさにそうですね。
ヴィンテージデニムの代名詞と言っても過言ではない存在ですしね。
質問のベクトルを少し変えて、いち「デニム職人」から見るプロダクトの品質、という意味での魅力はいかがですか?

室井 主に僕の専門が生地なのでまずは生地に関して言及すると、現代を生きる僕らから見ても、とにかくタフな作業着としてのバランスが秀逸なんですよ。
細かい数字は企業秘密なのでここでは語れませんが、使用している糸の番手と打ち込み本数もそうですし、今回ベースとなる‘53~54年あたりに製造されたモデルもタテ糸とヨコ糸でそれぞれの綿の特性を使い分けていることが調べればわかるはずです。


後藤 同年代の他ブランドのプロダクトとはやはり違います?

室井 違いますね。
リーバイスは高頻度で品質向上に向けた策を講じていたみたいでして、同じ年代の個体でもちょっとした仕様変更がみられますし、モノづくり対する真摯な姿勢が伺えるんです。
他ブランドとして比較するとひとつの企業としての歴史・規模が圧倒的に大きかったということと、ワークウエア製造事業にフルコミットしてきた事実、そしてすべてが自社工場でつくられていたから、現場の労働者の声を素早く製品に反映できたことが結果的にその差を生んでいるじゃないかと思っています。

後藤 なるほど、確かに47モデル以前の二次大戦中の物資統制下につくられたいわゆる「大戦モデル」も、当局の指示に反して品質低下を避けるために逆に生地のオンス数を上げたというエピソードは有名ですが、品質にコミットしようとするスタンスはかなり強いブランドだったんですね。
ちなみに細かく仕様変更を重ねていたとなると501XXの物理的な定義というか、プロダクトとしての技術的な定義ってできるものなんですかね?

室井 難しい質問ですね(笑) 
当時のプロダクトはクオリティコントロールが現代に比べると水準が低く、ロットの中での糸のムラ形状やインディゴの色の違いがかなりあり、1つとしてこれが501XXというものがないんですよね。
各時代やロットによって、綿、各種使用機械、染料の違いがある中で、ベースする個体を決めれば、その個体を限りなく近いモノをつくることは可能ですが、こういった案件では何を作るのかの選定がかなり重要だと思っています。

だから今回の企画はとても楽しみなんです。
デッドストック状態の501XXを切り刻んで分析をしていくわけですから。

後藤 知れば知るほど501XXって奥深いですね……。
正解があってないというか。

室井 そうなんです。
僕たちのような職人からしてみたら正解がないから面白いし、生涯付き合おうって思えるんです(笑)

「日本製のデニムの凄さの根源って何なんですか?」—後藤


後藤 明確な正解が用意されていない中で501XXのようなものを再現していくデニム職人の世界って本当に大変だと思うのですが、職人の腕を磨く上で一番大変な部分ってどこですか?

室井 一番は探求心を持ち続けることですね。
少し観念的な話になりますが、自分の中に常識をつくらずに新しい知識を常に取り入れ続けることがとても重要なんです。
というのも、いくら最新の技術を駆使して生地を分析にかけたとしても、そもそも分析した生地の部位や生地自体が「例外」のケースもあるわけでして、客観的な事実と経験値を駆使してその誤差をうまく修正していく作業も時には必要になるわけです。

後藤 テクノロジーは客観的な事実収集には役立つものの、501XXを再現するにあたってのディレクションやデータ解析の仕方自体には圧倒的な知識と経験値が必要ということですね。

室井 そういうことです。
少し前に海外で501XXを現代の科学を駆使して再現したという5ポケットジーンズがありましたが、肝臓が悪そうな変な色味になっていて……(笑)
結局、科学一辺倒では太刀打ちできないのが501XXなんだなと改めて感じましたね。
501XXを再現する道のりは、経験値のある者のみができるアドリブの連続ですから。

後藤 少し大味の質問になりますが、日本製のデニムのクオリティの高さって、どこに起因するんですか?
 
室井 まずひとつは職人たちの「501XXが好き」という歴史の長さですかね。
僕の場合は厳密にいうと501XXの「生地」が好きなんですけどね(笑)
あと、海外と比較したときの差は染色技術もさることながら一番は使用する織機でしょうね。
‘40~’50年代にアメリカでデニム生地を織っていたシャトル織機をいまもしっかりと稼働させられているのは日本ぐらいなんじゃないかと。
ちなみに、そのシャトル織機をまともに扱えるようになるのには10~20年の時間が必要ですから、それを扱える職人がいることもアドバンテッジとなり得ますね。


「今日、デッドストックにハサミを入れます」—後藤


室井 ちなみにこの企画、なぜいまこの時代にやろうと思ったんですか?
 
後藤 端的に述べるならば、ひとつのブランドとして、JELADOから見たリアリティのあるロジックで501XXを一度再現してみたかったんです。
僕個人としては古着が好きでこの業界に入ったわけで、少なからず実物をこの目で見てきた。
そして、この感覚って少し前までユーザーも近しいものを持っていたし、何も語らずとも501XXというキーワードがあれば商品にトピック性が生まれていたと思うんです。
でも今は違う。
ある種の盲目的な501XXの神格化が進み、実際に何が良いのかが業界内でわかりづらくなってきていると思うんです。

室井 この世界にも実物の501XXを見たことのない方も増えましたし、国内ブランドの先人たちがつくり上げてきた「501XX論」をそのまま横展開してモノづくりをすることもできなくはないのが現代ですしね……。

後藤 そう、だからこそ一次資料、つまりデッドストックにこだわって、今この時代に現代の最新技術とMさんのような方の経験値をコラボレーションさせて、JELADOとしての「解」をつくって世界に向けてリリースしてみたかったんです。
501XXの魅力を後世に語り継ぐのが、501XXに魅了されて今日まで走り続けているブランドとしてひとつの責任かなと。
だから今日、某研究機関にデッドストックの501XXの生地を分析してもらうために、実際にハサミを入れて室井さんに持ち帰ってもらいます(笑)

室井 あ、いまこの場でやるんですね(笑)

後藤 バッサリといきましょう(笑)

室井 これを某研究機関に持ち込んで、番手、撚り回数、打ち込み本数、織組織、繊維調、染濃度を調べてもらってきますね。

 
次回予告

次回、バラした501XXのデッドストックの科学的な分析結果を以て、実際に生地を再現するまでの過程を追います。お楽しみに!


<文/田形遼 写真/澤田聖司>